2020-01-01から1年間の記事一覧

日々の診療⑨

牛の妊娠期間は約280日だが、それより早く生まれることもある。 どれくらいなら早く生まれてしまっても子牛は生きていけるのだろうか? 今日診療したのは、立てなくなってしまった妊娠牛。 分娩予定が1月頭。 まだ3週間以上予定より早い。 分娩誘起すれば、…

日々の診療⑧

生まれて1ヶ月もたたない子牛が死にそう。 そう言われて急いで往診に向かった。 行ったらかすかに生きている程度。 8割位死んでいる状態。 下痢もして脱水があるが一番の問題は。 体がものすごく冷たいのだ。 水銀体温計の一番下からまったく動いてくれなか…

日々の診療⑦

前回抗生剤を使うと一定の時間牛乳や肉が出荷できなくなる話をした。 この前、分娩したあと餌を食べない牛を治療した。 ケトーシスや乳熱(分娩前後の低Ca)に加えて産道が激しく損傷していた。 かんたんに言うと、外陰部から膣に手を入れると、膣壁が裂けま…

日々の診療⑥

調子が悪い牛がいるとき。 獣医は治療する。 治療して良くなる牛もいれば、餌を食べない、乳量が上がってこない牛もいる。 そのときどうするか。 さらにながーく治療する場合、とりあえず1回治療をやめて様子をみるなどもあるが、肉として出荷するという場合…

牛とは②

前言ったように、普段私が立ち入る牛舎にいるのはほぼメス牛である。 彼女たち。 実はしっかりとした女世界で生きているのだ。 彼女たちは群で、むれとして生活する。 そのむれの順位を確認するために採食を利用する。 早く食べれる牛はボスであると、遅くし…

牛とは①

私が普段関わる牛はほぼメスである。 なぜか。メスはミルクを出してくれるからだ。 それに対してオスは・・・? つまりオス牛は生産性が低いのだ。 メスに生まれたら。 生涯その牧場で過ごすことができる。 満足な餌が与えられ、きっと良い生涯が得られるだ…

日々の診療⑤

私は農業共済組合に勤めている。 この組合はざっくりというと保険屋さんである。 農作物共済、家畜共済、果樹共済などのなかの家畜に関わっている。 たとえば風水害、干害、冷害、雪害、火災、などにより農作物の収穫がうまくいかない年があったとする。台風…

日々の診療④

HBSという病気がある。 日本語でいうと出血性腸症候群という。 親牛でタール便(赤黒い粘性便)出して立てなくなったりする。 昨日そのような病気にあたった。 分娩は全く関係なく急に立てなくなった、便があまりでてない、乳が出ない、体が冷たい、眼球が陥…

日々の診療③

皮膚がものすごくふくらんでいる時がある。 ボールがくっついているような。 今日は右の太ももあたりだ大きく膨らんでいた。 20cm位のやや楕円形の膨らみ。 こんなときはまず触る。 そして針を刺してシリンジで吸引してみる。 今回は膿汁が取れた。 たくさん…

日々の診療②

いきなり立てなくなった牛を診療した。 牛が立てないとき。 いろいろな原因があるが、大きく3つに分けられる。 ①低Caによるもの 分娩前後の経産牛に起こりやすい。 産次が増えれば増えるほど起こりやすい。 平均8.5-10程のCaが6とか、ひどいと3を切ることも…

日々の診療①

昨日子牛がぐったりとしていた。 体温は36℃程。 子牛は39℃位が平均なので、かなり低い。 口の中も冷たいし、眼球も陥没している。 BUNが90程。下痢による脱水だ。 さらにpHが6.9程。下痢によるアシドーシスだ。 子牛で元気ないときはアシドーシスが多い。 こ…

薬③

普段使う薬について。 「マルボシル」 現場において最も有効といってもいいほどの力を持つ。 ニューキノロン系の抗生剤なのでDNAに作用が及び殺菌性のため強い。 この薬が効かなくなると困るので、基本は他の薬がダメでどうしようもないとき、生死に関わりす…

薬②

普段使う薬について。 今回は「メタカム」。 成分はメロキシカムで、NSAIDs・つまり非ステロイド系の抗炎症薬。 解熱・消炎・鎮痛の効果がある。 前回の「フォーベット」と同じ部類である。 これも熱、炎症(腸炎による下痢)などに使う。 「フォーベット」…

薬①

普段の診療で使う薬について。 今回は「フォーベット」 成分はフルニキシメグルミンで、NSAIDs・つまり非ステロイド系の抗炎症薬。 解熱・消炎・鎮痛の効果がある。 牛の臨床でどのようなときに使うか。 簡単に言うと、熱を下げたいときに使う。 例えば子牛…

CIDR②

CIDRプログラムにも色々あるが、私が普段しているものを。 使うものは ・CIDR ・ジノプロスト(PGF2α) ・エストラジオール(E2) CIDRとは別名「膣内留置型黄体ホルモン製剤」で、膣内に入れることで外部からのプロゲステロン(黄体ホルモン)が常に吸収され…

CIDR①

牛は妊娠しなければならない。 なぜなら、乳牛ならそもそも妊娠・出産しないとミルクを出さないからだし、和牛なら妊娠・出産した子牛を打ってなんぼの仕事だからだ。 ということで妊娠することが必要。 そのためには授精の受け入兆候である「発情」を見つけ…

ケトーシス①

ケトーシスという病気がある。 これは、ケトン体というものが体にたまりすぎてしまった状態のこと。 もっというとエネルギー不足の状態である。 ちなみに、エネルギーとしては、「グルコース(糖)」「脂肪酸」「ケトン体」の3つがある。 多いのは、親牛が…

乳房炎⑤

乳房炎の分類 大きく伝染性(人の手などを介して感染)か、環境性(牛舎の敷き藁など牛舎環境により感染)に分かれる。 【伝染性】 ・黄色ブドウ球菌(SA) ・マイコプラズマ ・無乳性レンサ球菌(Streptococcus agalactiae) ・コリネバクテリウム ボビス …

乳房炎④

乳房炎を起こす主な微生物について。 まずはやっかいなもの3つ 【CO(大腸菌群)】 これは前に書いたように、臨床的に牛がやられる率NO1と言えるだろう。 なぜならCOショックになってしまい、瀕死の状態になったり、立てなくなったりするからだ。 牛床の敷…

繁殖⑥

続いて黄体の疾患。 【黄体遺残】 妊娠していないにもかかわらず、黄体が異常に長く存在し、その機能を発揮する状態。 これの何が問題かというと、黄体はプロジェステロンを分泌するために発情が起きないのである。発情が来なければ授精ができない。 原因は…

繁殖⑤

うまく発情が起きない病気について。 まずは卵巣の疾患。 【卵巣静止】 卵巣の大きさ自体は正常だが、発情がみられず、卵胞は発育しない、あるいはある程度までは発育するが成熟することなく閉鎖退行を繰り返している状態のこと。 排卵が起きないため、黄体…

繁殖④

発情がハッキリ現れれば授精の成功率は高くなる。 それにはまず、発情が起こるもととなる卵巣について知らないといけない。 正常であれば、卵巣は21日周期で構造物ができては消えていくようになっている。 構造部は2つ、卵胞と黄体である。 【卵胞】 まずは…

繁殖③

精子と卵子が一発で出会うために。 それは、卵子がいつ現れるかを予測することだ。 なぜなら、精子はいつでも子宮の中に注入できるが、卵子は限られた間隔に1回(牛でいうと21日に1回)しか現れないからだ。 卵子がいつ現れるか。 卵子が現れること、つまり…

繁殖②

授精とは子宮内で精子と卵子が出会うことである。 精子が子宮の中に侵入することはかんたんである。 牛であれば人工授精によりその状態がつくられる。 自然界であれば、交尾により膣内に射精され、精子が頑張って膣内へと移動する。 授精が大変なのは、精子…

繁殖①

牛において繁殖管理はとても大事。 そもそも妊娠・出産しないとミルクを出さない。 つまり出産しないと乳牛としての価値はない。 子牛が生まれれば、メスであれば育ててミルクを出してもらえる。 ミルクの出荷を生業とする酪農家にとって、繁殖は経営に大き…

蹄病④

蹄病で多いもの。 (1)蹄底潰瘍 (2)白帯病 (3)疣状皮膚炎 この3つが多い印象。 (1)蹄底潰瘍 蹄皮のびらん性欠損と言われるようだ。 自分からすると、蹄真皮と蹄皮が本来くっついいるはずだが、それが離れてしまっている状態。 原因は蹄への過剰な負…

蹄病③

蹄病の治療は、まず農家さんに牛がびっこを引いているという往診依頼から始まる。 蹄病②で言ったように、跛行の8割は蹄によるが、2割はその他による。 例えば関節炎であったり、大腿部などの筋肉が腫れることによる筋炎、もしくは亜脱臼なども考えられるた…

蹄病②

跛行(びっこをひくこと)について教科書によると ・跛行牛の95%は乳用牛である(和牛は5%) ・症例の80%は蹄病である(関節炎など蹄以外の跛行は20%) ・蹄病の80%は後肢に起こる(前肢は20%) ・蹄病の50%は蹄角質の疾病で、50%は趾皮膚炎がほとんどを占め…

蹄病①

牛はよくびっこをひくようになる。 なぜか? 600kg以上もある体重を支える足に大きな負担がかかっているからだ。 前足よりも圧倒的に後ろ足のほうが悪くなりやすい。 治療するときは枠場に入れて牛を固定し、蹄が見えるように足を縛る。 あとは悪いところ見…

抗生剤③

③作用機序 どのようなルートで抗生剤が菌に作用するかの話。 例えば、抗生剤はなぜ人間の細胞には影響せずに菌だけに作用するのか? 人間の細胞も壊されたりしないの? ・細胞壁合成阻害薬 細胞(植物にも)には細胞壁という細胞の外側を覆う壁があります。 …