日々の診療②

いきなり立てなくなった牛を診療した。

 

 

牛が立てないとき。

 

いろいろな原因があるが、大きく3つに分けられる。

 

①低Caによるもの

分娩前後の経産牛に起こりやすい。

産次が増えれば増えるほど起こりやすい。

平均8.5-10程のCaが6とか、ひどいと3を切ることものある。

この場合はCa補液剤を血管から入れてあげると良い

 

大腸菌乳房炎のショックによるもの

大腸菌細胞壁の構成成分であるLPS(リポ多糖)。

これが有毒。

大腸菌が死んで崩壊するときにLPS放出されてショックが起きる時がある。

これは排菌、消炎がが重要である。

 

③物理的な外傷による

筋肉、神経が傷んでも立てなくなる。

人間ではこれが一番馴染みがあるのではないか。

牛の場合、どこかにぶつけて足が腫れたり、足が開いてしまい筋断裂してしまったり、股関節脱臼などや、他の牛に乗られたり背骨を強く打ち付けることによる神経損傷など。

 

今回は受精予定日で立てなくなったのだが、発情牛に乗られた可能性がある。600kgを超す牛に乗られると負担も大きいのだ。

 

消炎剤やビタミン剤などを投与した。

良くなってくれると良いが。

 

大腸菌細胞壁の構成成分であるリポ多糖(LPS)

日々の診療①

昨日子牛がぐったりとしていた。

 

体温は36℃程。

子牛は39℃位が平均なので、かなり低い。

口の中も冷たいし、眼球も陥没している。

BUNが90程。下痢による脱水だ。

さらにpHが6.9程。下痢によるアシドーシスだ。

 

子牛で元気ないときはアシドーシスが多い。

こういうときは補液剤に重曹を入れる。

 

これで一気によくなることがある。

本当に別の子牛じゃないのか?ってときも。

補液を3-4L程入れ水分の補充、重曹を入れてアシドーシスの補正。

これがかなり有効。

 

3-4回とかもっと診療しても良くならないものもいる。

2診目を待たずして死んでしまい子牛も。

それはその時による。

 

今回は次の日にはピンピンしていた。

体温も39℃。一応補液は続けた。

 

こういうときは牛の役に立てたなーって実感できる。

嬉しいひととき。

 

また悪くならないのを願う。

薬③

普段使う薬について。

 

「マルボシル」

現場において最も有効といってもいいほどの力を持つ。

ニューキノロン系の抗生剤なのでDNAに作用が及び殺菌性のため強い。

 

この薬が効かなくなると困るので、基本は他の薬がダメでどうしようもないとき、生死に関わりすぐに効果を出さないと行けないときなどに使う。もしくはサルモネラマイコプラズマで使う。

 

濃度依存性なので、血中濃度が高くなる方が効く。

そのため、静脈に注射するのが良い。

 

牛では細菌性肺炎、甚急性乳房炎で適用となるが、腸炎で使ったりもする。

体重100kgあたり2mlというハンドリングの良さも素晴らしい。

 

他の薬で熱が下がらないときに使ったりする。

とても効く印象。

慎重使用が求められる薬。

薬②

普段使う薬について。

 

今回は「メタカム」。

 

成分はメロキシカムで、NSAIDs・つまり非ステロイド系の抗炎症薬。

解熱・消炎・鎮痛の効果がある。

前回の「フォーベット」と同じ部類である。

 

これも熱、炎症(腸炎による下痢)などに使う。

 

「フォーベット」と何が違うか?

それは速効性である。

 

フォーベットは血管に打つのですぐ効くが、メタカムは皮下に打つ。

じんわり系だ。2-3日効く。ただすぐに効くような薬ではない。

 

もし41℃の子牛がきつくて元気がなさそうなら、すぐに効くフォーベットを使うべき。すぐ効くが代謝も早く数時間で薬は体内からなくなる。

もし39.8℃くらいの微熱でそこそこ元気もあり慢性的な肺炎とかならメタカムを使って長く効かせる。長いことじわじわ効く。

 

どっちを選ぶかはケースバイケース。

薬①

普段の診療で使う薬について。

 

今回は「フォーベット」

 

成分はフルニキシメグルミンで、NSAIDs・つまり非ステロイド系の抗炎症薬。

解熱・消炎・鎮痛の効果がある。

 

牛の臨床でどのようなときに使うか。

簡単に言うと、熱を下げたいときに使う。

 

例えば子牛の平熱はだいたい38.5~39.5℃。

それが呼吸が荒くて元気がなくて熱が41℃もある、と農家さんに往診依頼されるときがある。肺炎だ。

 

こういうときはどうするか。

熱が上がっているのは、細菌感染していてそれに対して免疫系が活発になることによる体の防衛反応だ。コレ自体は体のために良いこと。でも体はきつい。

なので、体が楽になるように熱を下げてあげる。このために使うのが「フォーベット」。もちろん血管に注射するのですぐに効く。

ただこのときに細菌がいたままだと、よくない。

なので抗生剤を併用して、細菌をたたく。

 

まとめると、肺炎で高熱がでたら、抗生剤と熱を下げる薬を注射する。

1日目に抗生剤と熱を下げる薬、2-3日目は抗生剤のみ打って治療終了というケースが多い。たいてい2日目に熱は下がっている。

 

 

もちろん、他の病気でも熱が出てたら使う。

 

ただ、腸炎のときは注意が必要。

消化管にダメージを与えてしまうので、より下痢がひどくなってしまうことも。

とくに血便には使わないほうが良い。

 

速効性のあるとても良い薬。

ただ、少し高い。

 

 

CIDR②

CIDRプログラムにも色々あるが、私が普段しているものを。

 

使うものは

・CIDR

・ジノプロスト(PGF2α)

エストラジオール(E2)

 

CIDRとは別名「膣内留置型黄体ホルモン製剤」で、膣内に入れることで外部からのプロゲステロン(黄体ホルモン)が常に吸収され血液中に流れる状態になる。つまり人工的に黄体期を作ってしまうのだ。これは膣内に入れるが、T字型で抜けにくい構造となっている。たまに抜けることもあるが。

 

プロゲステロンがある状態だと、発情と排卵が抑制される。

 

この状態を7日間続けたあとCIDRを抜く。

すると一気に血中プロゲステロン濃度が下がる。

ここでPGF2αも投与するが、これはもし黄体が残っていたら、発情にばらつきが出るので、それを防ぐために黄体を消しにいくのだ。

つまりCIDRをによる外因的なプロゲステロンと黄体による内因的なプロゲステロンをなくして一気にプロゲステロン濃度を下げてしまおうということ。

 

すると2-3日で発情が来るので、授精をして終了となる。

 

 

 

 

CIDR①

牛は妊娠しなければならない。

なぜなら、乳牛ならそもそも妊娠・出産しないとミルクを出さないからだし、和牛なら妊娠・出産した子牛を打ってなんぼの仕事だからだ。

 

ということで妊娠することが必要。

そのためには授精の受け入兆候である「発情」を見つけて人工授精をするのがオーソドックスなのだが、発情が見つけれない場合がある。

 

この理由は様々。

牛の個体によって見せにくい、足が痛かったり状態が悪く見せにくい、そもそも農家さんが忙しくてなかなか牛を診る時間がない。

 

そんなときに便利なもの。

それが「CIDR」である。

もっと言うと「CIDRプログラム」により必ず授精にまでもっていくということ。

 

これはどうやってやるのか。