日々の診療⑦
前回抗生剤を使うと一定の時間牛乳や肉が出荷できなくなる話をした。
この前、分娩したあと餌を食べない牛を治療した。
ケトーシスや乳熱(分娩前後の低Ca)に加えて産道が激しく損傷していた。
かんたんに言うと、外陰部から膣に手を入れると、膣壁が裂けまくってしまっているのだ。お産が大変で人間が引っ張りすぎたのだ。これが腹腔まで通じると腹膜炎などになって致命傷となる。
今回はそこまででもない気がするが、この先良くなるか自信がなかった。
そんなときに一応頭にいれていかないといけないこと。
それは肉として出荷するという選択肢である。
抗生剤など薬を使うと乳と肉の両方に出荷制限がかかる。
たとえば、私が普段使っているペニシリンだと、乳で96時間、肉で14日間の酒家制限がかかる。
この牛がもし乳が出る状態にならないかもしれないと思ったら。
乳牛の価値は、乳と肉。
乳がだめなら肉の選択肢も考えて薬を使わないと、肉として出荷したいのにその間ずっと牧場で飼育する必要がでてきて、エサ代も場所もとってしまう。
たとえば、カナマイシンという抗生剤だと肉が30日間も出荷制限がかかるが、セファゾリンという抗生剤だと肉が3日間である。
その時々で選択しないとあとで後悔することになる。
今回のは予後がかなり心配ながらカナマイシンを使ってしまったが、良くなってくれたので一安心だった。
日々の診療⑥
調子が悪い牛がいるとき。
獣医は治療する。
治療して良くなる牛もいれば、餌を食べない、乳量が上がってこない牛もいる。
そのときどうするか。
さらにながーく治療する場合、とりあえず1回治療をやめて様子をみるなどもあるが、肉として出荷するという場合もある。今回はその肉の話。
乳量が増えなければ乳牛としての価値はない。
なので食肉用に出されることもある。
その場合、薬の出荷制限の問題が出てくる。
抗生剤などの薬を牛に注射すると、当然ながら体の中にその薬剤が入ってしまう。
そのため、乳にも肉にも薬物が入ってしまう。
もちろんそれが人間の中にはいるのはだめなので、それらの薬がなくなるとされる日数は乳も肉も出荷できなくなる。
たとえばうちの診療所にあるペニシリンを使ったとする。
すると、それから乳なら96時間、肉なら14日出荷できなくなる。
そのため、日々の診療では牛の状態と天秤にかけて農家さんと相談して薬を決める。
続きは次回。
牛とは②
前言ったように、普段私が立ち入る牛舎にいるのはほぼメス牛である。
彼女たち。
実はしっかりとした女世界で生きているのだ。
彼女たちは群で、むれとして生活する。
そのむれの順位を確認するために採食を利用する。
早く食べれる牛はボスであると、遅くしか食べれない牛は下位であると自覚する。寝るベッドも同様に決まっている。堂々と生きれる牛、そうでない牛がいる。そして餌を食べる量からも体格に差がでてくる。
診療の数十分しかその牛舎にいない私は自覚したことがないがそうらしい。大変な世界だ。
牛とは①
私が普段関わる牛はほぼメスである。
なぜか。メスはミルクを出してくれるからだ。
それに対してオスは・・・?
つまりオス牛は生産性が低いのだ。
メスに生まれたら。
生涯その牧場で過ごすことができる。
満足な餌が与えられ、きっと良い生涯が得られるだろう。
オスに生まれたら。
一般的には生まれて数日後にその牧場を離れることになる。
農家さんの収入の大部分はミルクによる。
農家さんにとって、ミルクを出さないオス牛は必要ない。そのため、生まれてすぐ肥育屋さん(オス牛を大きく育てて肉として出荷する方)に売られてしまうのだ。
オスはミルクを出さないのでお肉としての価値しかないのだ。
満足な餌は与えられるだろうが、10数カ月後にお肉になる運命となる。
生まれた時点で寿命はほぼほぼ決まってしまっている。
オスに生まれるかメスに生まれるか、牛にとっては大事な問題。
もちろん農家さんにとっても。
難産でお産に立ち会うときも、生まれた性別によって農家さんのテンションが変わる。メスだと喜ばれるし、オスだとオスかぁ・・ってなってしまう。
牛に生まれ変わるならメスに生まれたいな。
日々の診療⑤
私は農業共済組合に勤めている。
この組合はざっくりというと保険屋さんである。
農作物共済、家畜共済、果樹共済などのなかの家畜に関わっている。
たとえば風水害、干害、冷害、雪害、火災、などにより農作物の収穫がうまくいかない年があったとする。台風や逆に全く雨が降らないなど、農家さんにはどうしようもない気候に大きく左右されて、それで年間の収入が著しく低くなると農家さんは困る。そんなリスクを背負って毎年やるのは大変すぎる。でも国としては農作物をつくってくれる人がいないと困る。なので国が一定の補助をしましょうというニュアンスである。
これを家畜にあてはめる。
たとえば牛が死んでしまったとき。そのときに保険金を出しましょうということ。
もしくは病気になったときも、国が一部手助けしましょうということである。
その病気の治療に獣医が必要で我々が働いている。
そんなことで、牛が死んでしまった場合に死亡確認をするのもとても大切な仕事。
今日はお産で死んでしまった子牛4頭を含めて6頭も確認した。
1頭もない日ももちろんあるので、今日はとても多かった。
今年1番多い日になるかもしれない。
日々の診療④
HBSという病気がある。
日本語でいうと出血性腸症候群という。
親牛でタール便(赤黒い粘性便)出して立てなくなったりする。
昨日そのような病気にあたった。
分娩は全く関係なく急に立てなくなった、便があまりでてない、乳が出ない、体が冷たい、眼球が陥没している、など。
血液を見ると、白血球の上昇、高血糖、低Ca、低Na、低Clなどが見られた。
他に、高タンパク、高BUN、低Kなども見られる。
かなり助けにくい病気で、発症牛の85%以上が24~36時間以内に死亡する。
原因は餌の腐敗やカビによる中毒などど言われており、腸管内にClostridium perfringensが異常増殖しているとされている。
Caなどの補液、抗生剤、止血剤、腸管運動促進剤、などを投与した。
この牛はこれからどうなるだろう。
日々の診療③
皮膚がものすごくふくらんでいる時がある。
ボールがくっついているような。
今日は右の太ももあたりだ大きく膨らんでいた。
20cm位のやや楕円形の膨らみ。
こんなときはまず触る。
そして針を刺してシリンジで吸引してみる。
今回は膿汁が取れた。
たくさん溜まっているようだったのでメスで切って切開してだした。
そして中を洗浄して抗生剤を入れて終了。