子牛のへそ③

臍ヘルニアは先天性の病気で、牛では0.65-1%程度で起こるとされている。

通常ヘルニア輪(ヘルニアの穴)の直径が5㎝未満で6か月齢以下では、包帯を圧迫するなどの方法で治ることがある。

 

ただ、臍帯遺残構造(臍動脈、臍静脈、尿膜管)の感染が合併していたら、ヘルニア輪が小さくても手術が必要なことが少なくない。ある調査では、牛の臍ヘルニア症例の38%が臍帯遺残構造の感染を合併していた、とされる。つまり、牛では単純な臍ヘルニアの発生は少ないと考えられる。

 

臍ヘルニア手術の前に大事なのは

①手術前の絶食。

成牛は第一胃という巨大な発酵タンクをお腹に持っている。通常、臍ヘルニアの牛は食欲はいつも通りのため、そのまま手術に向かうと第一胃内容逆流による誤嚥、第一胃の胸部圧迫による呼吸抑制と後大静脈圧迫による循環障害などがおこってしまう。さらに、高い腹圧により、ヘルニア輪を閉鎖・縫合する難易度が高くなってしまう。

ただ、臍ヘルニア手術をする症例の多くは生後そんなに経っていない子牛のため、哺乳中の牛であれば数時間前の断乳でよいと思う。第一胃が機能している牛(だいたい3か月齢以上)であれば、手術前日夕方の断食をするとよいかと思われる。

 

②麻酔

仰臥位(仰向けで両足を伸びた状態で縛る)で行い、麻酔はキシラジンによる鎮静が主流である。私もキシラジンを使うこともあるが、局所麻酔薬のプロカインにより行うこともある。ホルスタインに比べ、黒毛は痛みに敏感であるようで、痛みを強くコントロールしたい場合はブトルファノールを静脈に併用すると良いようだ。

 

③縫合法

大網などが腹膜に癒着していることも多く、癒着や感染を確認できるヘルニア嚢切除法が相応しいと考えられるが、高い腹圧により縫合部位の組織の離開や縫合糸の断裂が起こりやすく、頑固な縫合が求められる。

通常は水平マットレス縫合であるが、その変法であるVest-over-Pants縫合も有効である。これはもともと馬の臍ヘルニアで使われていたものだ。水平マットレスと異なり、縫合部の両辺縁が重層し、緊張が縦横に分散することで、縫合部の組織で縫合糸に加わる負荷が軽減するものと考えられる。

 

次回は実際の症例について。