第1胃③

第一胃は容量にて150-200L、内容物量にして100kg以上となるバカでかいものだ。

体重が600kgなのでその数分の1を占めるということになる。

牛のお腹の左半分の多くは第一胃に占められているといっても過言ではない。

 

第一胃は下部に「液状層」が、上部に「ガス層」があり、その間に「ルーメンマット」というものがある。

 

この中に細菌、真菌、プロトゾアなどの微生物が牛と共存している。

これらは草の繊維などを食べて分解し、結果として牛が利用できるエネルギーに変換してくれている。このエネルギーは揮発性脂肪酸(VFA)と呼ばれ、酢酸、プロピオン酸、酪酸の3つからなる。

 

牛はこれらVFA(これがエネルギーの50-70%)と、ルーメン非分解性タンパク質、そして微生物(実は草を分解してくれるだけでなく、微生物自体も牛の重要な餌になっている)を利用して牛は生きている。

第1胃②

第一胃の働きは食べた草を栄養素の変換することだ。

 

私が学生時代にある臨床獣医さんが言っていた。

「牛の素晴らしいのは、人間と食べ物がかぶらないこと。人間が消化できない草を食べて、ミルクや肉を人間に与えてくれる。」

確かにそのとおりである。

 

人間は草を腸内で分解できない。

実は牛自体も分解することはできない。

ではなぜ食べているのか。

牛の1胃にいる微生物たちが分解しているのだ。

第1胃①

牛は4つの胃をもっている。

 

ざっくり役割をいうと

1胃→微生物により植物繊維を栄養素に分解する

2胃→ポンプの働きにより食べ物を1胃から口に押し戻しかみ直す(反芻する)

3胃→消化しやすいものは4胃に、まだのものは2胃に戻す。水分を吸収する。

4胃→食べ物を消化吸収する

といった感じ。

それぞれに役割がある。

 

とくに重要なのは1胃。

ある教授の「牛の健康とは第一胃の健康」との名言があるぐらい。

 

1胃は牛の左半分を占め、150-200Lも容量があり、内容物も100kg以上入っている。バカでかいのだ。

日々の診療11

牛の手術。

圧倒的に多いのが第四胃変位という病気。

 

牛には四つの胃があるが、そのなかの四胃が正常な位置から動いてしまうことで通過障害が起こってしまうのだ。「第四胃」が「変」な「位」置にくる病気。

 

分娩で子牛がいなくなってしまったあと、大きな子宮が急に小さくなることで腹腔内にスペースができてしまうことで四胃が滑り込みやすくなる。

 

四胃は「左」「右」どちらにも動き、それぞれ「第四胃左方変位」「第四胃右方変位」と言われる。

左が多い。9割くらいか。

右は少ないが重症なことが多い。なぜなら右だと右側にある第三胃と絡み合う「第四胃尾右方捻転」になりうるからだ。

 

続きは次回。

 

日々の診療⑩

1ヶ月以上間が空いてしまったが、前回の立てなくなった分娩までまだだいぶ時間がある牛の話。

 

結局2週間ほど前、別の牛を見ていたときにその牛の産道から腐ったような液体が。

これは・・・と思いながら手を入れると足がもうそこまで来ていた。

引っ張ったら娩出できたが、すでに死亡していた、すこし腐敗して。

一応手を入れると、もう1頭いた。双子。こちらも死んでいた。

 

最初に診たときはまだ胎児は生きていた。

残念な結果に。

 

 

日々の診療⑨

牛の妊娠期間は約280日だが、それより早く生まれることもある。

どれくらいなら早く生まれてしまっても子牛は生きていけるのだろうか?

 

今日診療したのは、立てなくなってしまった妊娠牛。

分娩予定が1月頭。

まだ3週間以上予定より早い。

 

分娩誘起すれば、多くは36時間以内に分娩してくれる。

それをいつするかが問題。

 

状況的に、おそらく親牛は厳しいと思う。

今回は子牛を生きて出すということ。

 

できれば予定日にできるだけ近付けて分娩誘起したいが、それまでに親牛がもたないかもしれない。親が生きていても、娩出する力がなく帝王切開で出すことになるかもしれない。

 

最初の話に戻るが、2週間くらいなら早くても大丈夫だと思う。

1ヶ月前でも大丈夫なときもある、体は小さいが。

 

今回はとりあえず血液をとってみることに。

餌は食べているが、眼球がやや陥没してるし体温が低く全体的に力がない。

どうなるだろう。

日々の診療⑧

生まれて1ヶ月もたたない子牛が死にそう。

そう言われて急いで往診に向かった。

 

行ったらかすかに生きている程度。

8割位死んでいる状態。

下痢もして脱水があるが一番の問題は。

 

体がものすごく冷たいのだ。

水銀体温計の一番下からまったく動いてくれなかった。

おそらく30℃程。

平熱が39℃程なのでかなり異常なことだ。

 

こんなとき。

一番いいのは温かいお湯にいれることだ。

農家さんによっては簡易風呂(プール)があって、そこに40℃くらいのお湯を入れて体温を上げてあげる。これで復活する場合もある。

 

今回の農家さんにはそのようなものはなく、温かい点滴5L程と薬を入れて、毛布や湯たんぽでできるだけ温めてあげるよう伝えた。

 

冬になると弱った子牛が一気にこのようになることがある。

もしくは、夜中にお産があり、生まれた子牛が寒さで・・・ということも。

 

今日は朝7時で-10℃。

北海道の冬は厳しい。